「秋の野の草のたもとか花すゝき ほにいでてまねく袖と見ゆらむ」(在原棟梁)
標高1038mの『倶留尊山(くろそやま)』と、亀の背に似た標高849mの『亀山』を結ぶ西斜面から麓に広がる標高700m・約38haの『曽爾高原(そにこうげん)』。
『曽爾高原』では、陽を浴び銀色に輝くススキが風に吹かれ草原に揺らぎ、夕刻には夕日を浴び黄金色に輝き日中とは違った景観を楽しむことができます。
イネ科ススキ属の多年草植物の『ススキ(薄・芒)』は、ある植物群落が長年月の間に別の植物群落へと移り変わる「遷移(せんい)」の最終段階で繁栄します。
夏から秋にかけて茎の先に穂のように群がって花を咲かせる赤褐色の「花穂(かすい)」をつけます。
ススキの花には「花弁(かべん:花びら)」がなく黄色い雄しべを吊るし黄金色になり、そして「穎果(えいか:果実)」ができると白い綿毛が生えて、ススキ全体が白っぽくなります。
自然界では、その後はアカマツなどの陽樹林が侵入して森へと変化していきますが、定期的な草刈りや毎年の山焼きを行うことで、ススキの草原を維持することができます。
かつては「茅(かや)」と呼ばれ、農家の「茅葺(かやぶき)」の材料や家畜のエサとしてススキが使われることが多く、刈り入れをするススキの草原「茅場(かやば)」が集落の近くにありましたが、現在ではそのような習慣がなくなり、ススキの草原を管理することが難しくなってきています。
また、環境の変化や観光地化によって秋には約40万人が訪れるようになり、侵入された草原は土壌が踏み固められるなどが要因となり、近年では花穂が出現しないなどの生育不良が顕著になり、いつもの黄金色の穂を揺らすススキが『曽爾高原』一面に広がって輝く姿を見られなくなっています。
手招きする様に、風を受けて一斉に揺らめく『曽爾高原』のススキたち。
以前よりその姿は減ってしまったようですが、日を浴びきらめくススキたちの儚さと風に揺れる健気さは、きっと昔から変わらない様相であり、またかつての賑やかな仲間たちが戻ってくるようにと、いつもより広く遠くへと種子を飛ばそうと力強く揺らめいている様に感じます。
自然の驚異と美しさとは裏腹に、繊細で弱い面をも併せ持っていることを、『曽爾高原』のススキを幼い頃から見続け、そして見守ってきた方に話を伺うことで気付かせてくれました。
写真・文 / ミゾグチ ジュン